競輪は必ずしも速い選手が1着になるとは限らないギャンブル。
複雑なルールの中で車券をどうやって買えばいいのか?その予想精度を上げるために欠かせない要素のが「ライン」です。
とはいえ、ラインにはいろんなパターンが存在するので、歴20年の私でも全て理解しているとは言えません。ただ、基本形を覚えておけば、それなりの車券に仕上げることが可能となるでしょう。
そこで今回は、競輪独自のルール「ライン」について解説します。
競輪のラインとは?
競輪で最も目にする「ライン」という用語。
レース展開を読むうえで“なくてはならない情報”であり、車券の買い方にも大きく関係してくる要素です。車券職人になるためにも、まずは基礎知識から押さえていきましょう。
ラインは複数人が協力するグループの単位
競輪のラインは、同じレースを戦う選手が協力し合う目的で作られます。
1つのラインは最低2人で形成。1レース最大9人の選手が走るため、メンバーの中で2つ、3つとラインが出来上がっていくことになります。
ラインを組んだ選手たちは互いに連携して1着を目指します。言い換えれば、レースの中で作られる“運命共同体”のようなもの。
基本「同じ地域の選手」で構成
ラインを組む選手の構成には大きな特徴があります。それは「同じ地域」であること。
都道府県、そして地区(北日本・関東・南関東・中部・近畿・四国・中国・九州)が同じ選手同士での連携が基本形です。
同地区の選手がいない場合は、地理的に近い選手のライン(東日本・中四国など)が一般的。また、地域が違っても連携が取れそうなら即席でラインが組まれることもあります。
1人で戦う「単騎」の選手も
すべての選手がラインを組んで走るという訳ではありません。中にはラインを組まず、1人で走るという選手もいます。これを「単騎」と呼びます。
多くの場合は「同じ地区や近隣の選手が他にいない選手」が取る作戦。
仲間と連携を取れない一方、1人で身軽に動ける点がプラスに働くことも。単騎選手の実力次第とはなりますが、単独行動が功を奏して1着になるケースも珍しくありません。
1レースで作られるライン数は?
出走する選手の数(最大9車)にもよりますが、9車なら最大4つのライン(2-2-2-3など)ができることになります。
ラインの数に関係するのは、この後の項目で紹介する「自力選手」の存在。つまり、ラインを引っ張れる選手がメンバーの中に何人いるのかがポイントです。
一般的なのは3つのラインができる「三分戦」の形ですが、自力選手が少ないと「二分戦」や「先行一車」といった極端な展開も。逆に短いラインや単騎選手が多いと「コマ切れ」も想定されます。
いずれにせよ、展開に関する用語は一通り覚えておくのがベスト。
ガールズケイリン・PIST6にはラインがない
ラインを作ってレースを行うのは男子の競輪のみ。
他にも競輪種目として「ガールズケイリン」や、250バンクで行われる「PIST6」があるものの、どちらもレース中の動きが制限されたインターナショナルルール。
五輪や世界選手権のケイリン種目で採用されている国際基準のルール。原則、個人戦で行われ、複数の選手が意図的に結束する行為(ライン)は禁止。また、競り合いやブロックといった“横の動き”が制限されているのも競輪との大きな違い。
その為、ライン形成は禁止とされています。ちなみに、韓国競輪にもラインはありません。
2025年度からは、男子版のインターナショナル競走「KEIRIN ADVANCE」を実施予定。そして、ルーキーシリーズでもインターナショナルルールを導入し、ラインがよく分からない初心者でも楽しめる企画が予定されています。
競輪でラインを組む理由
日本の競輪だけで認められているライン連携。
競輪初心者の中には「なぜこんな戦い方をするの?」「単騎の方が有利だと思うけど?」と感じている人は少なくないはず。
その疑問について、個人的な見解を踏まえながら分かりやすく解説します。
風圧を受けにくくする
競輪はスタートからしばらくの間、先頭誘導員の後ろを1列になって走ります。
勝負どころで飛び出す時も横に広がるのではなく1列のまま。これには「風圧によるスピードダウンを防ぐ」というライン形成の利点が関係しています。
横に広がって走るとモロに風を受けてしまいますが、1列で走った場合、自力の後ろで走る番手の風圧は50%。3番手はさらに半分の25%といわれており、番手以下にいる選手の負担軽減は明らか。
ラインは速度を維持しながら体力を温存し、他のラインを抜き去るために必要な戦法なのです。
車券予想がしやすくなる
車券を買うファンにとってラインは大きな手掛かりとなります。なぜなら「どのラインが勝つか」を読みやすくなり、それだけで買う点数を絞ることができるからです。
9車立ての3連単は504通り。投資金額を絞って1点当たりの厚みを持たせることこそ、プラス収支達成の近道となります。
競輪初心者の場合、選手個人ではなく“ライン単位で強さの比較”をしてみましょう。
「このラインが一番強い」という結論が出たら、1着候補はラインの自力・番手のどちらかに絞ることができます。あとはラインの3番手もしくは敵のラインにいる強い選手を2,3着候補で車券を組み立てればOK!
ライン予想が面倒だと感じるなら、ガールズケイリンの方が向いてるかも。
レースを面白くするプラス要素
否定的な見方もあるとはいえ、競輪はラインがあるから面白いのかもしれません。
ラインの結束と、ライン同士の駆け引きこそが競輪の醍醐味。
最後は個人の競り合いとなりますが、レースの主導権を奪い合う段階では「地区ごとの団体戦」という楽しみ方があります。
もちろん「よーいドンで自由に走れるルールにすればいいじゃないか?」という声があるのは理解していて、かつては先頭誘導員がおらず、2周で決着する「スプリントレース」という企画も実際にありました。
しかし、プロの競輪選手といえども風圧を受けながら2周を全力で逃げ切ることは至難の業。そうした事情から、牽制ばかりでレースが盛り上がらず、評判はそれほど良くなかったようです。
「仲間意識」が強く重んじられる
地区単位でラインが作られることからも分かるように、競輪を語るうえで外せないのが「地域性」です。
同じ都道府県の選手はもちろん、練習機会や交流が多い近隣の選手とも連携を組みやすい傾向。
また、普段から関わっていることで、仕掛けの呼吸を合わせやすい強みが生まれます。仲間意識の強さはそのまま「ラインの団結力」へと変わっていくのです。
地元から強い選手を輩出すれば、自然とラインも強くなる。そして、G1などの大きなレースで勝てる選手が増える好循環が生まれます。
一昔前の「関東フラワーラインvs九州軍団」のような地域間闘争は競輪界を盛り上げる大きな起爆剤に。
ラインはファンの立場からも地元選手に肩入れしやすく、応援にも熱が入る図式といえるでしょう。
競輪のライン構成と役割
競輪のラインはレースを有利に運ぶための最も有効な戦法。さらに、各選手が任された位置でライン同士の攻守を繰り広げる点に奥深さがあります。
ラインを組む選手の役割
ラインの中では並ぶ順番によって果たすべき仕事が違います。
攻めと守りそれぞれの役割分担がうまく機能すれば、ラインの中から1着の選手を出すことができるわけです。
ラインを引っ張る「自力」
ラインの先頭で走る選手は「自力」と呼ばれ、すなわち自分の脚でライン全体を引っ張っていくのが課せられた役割。よって、動き方ひとつでレースの流れが変わる重要なポジションとなります。
前の位置ならそのまま逃げ、後ろなら追い上げてまくり。いずれにしても、他のラインの自力選手に負けないこと。スピード豊富な高い先行力を持つ選手が務めます。
先行の直後につける「番手」
自力選手のすぐ後につけるのが「番手」。二番手のことを指します。
当然、ついていくだけが仕事ではありません。後ろから追い上げてくる敵のラインを牽制したり、時には横の動きでブロックして勢いを止めたりする役割が求められます。
味方の自力選手を後ろでマークしながら走るので、この技術に優れた選手を「マーク屋」と呼ぶことも。最終周の直線で1着を奪うケースが多く、番手はラインの中で最も強い選手が務めるのが一般的です。
実は大きい役割を担っている「3番手」
自力、番手に続くのが「3番手」。実力に劣る選手が入る印象はありますが、3番手には“他のラインに攻めさせない”という地味だけど大切な仕事。
番手選手が外に張って敵のラインをブロックすると内側にスペースが空いてしまいます。怖いのは、そのスペースに違う選手が飛び込んで番手を奪われるリスク。
それを防ぐために、3番手手は内側をしっかり締めて味方を守らなければなりません。
レースによっては1つのラインが4人以上に伸びることも。この場合は後ろに「4番手」「5番手」と選手が続き、守備力がさらにアップします。
ラインの大枠を決める番組屋
ラインは好きな選手同士が自由に組めるものではありません。原則として、各競輪場にいる番組構成員、通称「番組屋」によって決められます。
番組屋の役割は「どのメンバーで走ればレースが面白くなるか」を考えること。
特定のラインに人数を偏らせない、各ラインに自力で動ける選手をなるべく入れるなど、ライン同士の戦いが白熱するようなレースを組んでいくのです。
選手たちは番組表を見て自分のラインと位置を確認し、戦術を考えながらレースに向けた準備を進めていきます。
ラインの並びはどうやって確認する?
1つのレースにいくつのラインができて、各選手がどの位置で走るのか。番組が出た時点でおおよその想定ができるので、専門紙や公式サイトでは「並び予想」の欄で事前に情報を提供しています。
また、レース前の選手紹介でバンクを周回する際、本番の並び通りに走るケースがほとんどです。
ただし、確定しているのは「ラインの中での順番のみ」であること。
隊列についてはレースが始まらなければ分かりません。「どのラインがスタートで前を取るのか」という予想も、レース展開に大きく影響するポイントとなります。
ラインが乱れる例外パターン
事前予想の通りにならなうことがあるのも競輪の難しいところ。
例えば、他のラインに割り込んでいく行為はルール上問題なし。それ以外のも例外的な展開になるケースも覚えておいた方が良いでしょう。
代表的なケースを3つ紹介するので、頭の隅っこにしまっておいてください。
番手を奪い合う競り
強い先行選手がいたレースで稀に見られる番手の奪い合い。
どうしても折り合いがつかなかった場合、番手希望の選手が自力の後ろを2人並んで走る光景が見られます。これが「競り」と呼ばれるパターンです。
競りに関してはレース前に選手自身が意思表示するため、選手紹介でもファンに競りの形を見せながら周回します。
単騎が既成のラインに対して競りを仕掛けることはよくありますが、時には自力の後ろに2列のラインができることも。最終的に誰が番手を奪い切るかでレースの展開が大きく変わってきます。
ラインを捨てる「切り替え」
競輪のレースパターンは非常に幅広く、選手の動き次第でペースが急変する想定も必要です。
味方の自力選手が早々に後退し、余力のある番手までズルズル後退する訳にはいかないケース。こうした時に発動するのが「切り替え」という判断。
味方の自力が敵のラインに飲み込まれると判断した場合、番手が敵のラインに乗っかって勝ちに行く戦法。
自分から踏み込む瞬発力はもちろん、他の選手から位置を奪うスキルや当たりの強さも必要となります。
ラインを崩す「分断」
ライン戦略の一つに、勝負どころで別のラインに割って入る「分断」があります。
連携の車間が空いた隙を狙って番手を奪う動き。レース実況では「飛びつき」という表現が使われることもあります。
単騎の選手が割り込む形や、自力と番手の2人が敵ラインの自力の後ろにすっぽり収まるケースも。
切り替えと同様に、分断もレースの流れ次第で起きるラインの崩れ。想定される展開が大きく変わるので、崩れが起きたレースは高配当の可能性が高くなります。
競輪のラインを予想に生かす
ラインの基礎を理解したところで、具体的にそれぞれのラインをどう評価し、どのように予想すればいいのか解説します。
自力(先行)の強さを見極める
競輪の予想でまずやるべきことは「どのラインが一番強いのか」という評価付け。
基準にするのは各ラインの先頭を走る自力(先行)の脚力。ライン全体が機能するかどうかはその強弱で大きく変わってくるからです。
先行とまくりに分かれるレースもあれば、自力同士で先頭を奪い合う展開が予想されるレースも。主導権を取ったラインが車券に絡む可能性は高くなるので、まずは自力の評価が何より重要!
逃げたら番手・まくりなら自力が有利
例として、三分戦なら「前を取って逃げるライン、中段で抜け出しを狙うライン、後ろからまくるライン」に分かれるのが一般的。
軸に選んだラインがどのポジションを取るかによって、ラインの順番付けが若干変わることもあります。
前を取ったラインが勝つと考えるなら、脚を使った自力を番手や3番手が交わしていく可能性が浮上。まくり展開なら勢いがついている自力がやや有利です。
当然ながら、個々の能力差は抑えるべきポイント。それを加味しても絞り切れない時は、1,2着の折り返しやBOX買いで手広く押さえましょう。
ラインがちぎれる可能性を考慮
最下級のA3選手が走る「チャレンジレース」でよく見られるのが、デビュー間もない新人選手と峠を越えたベテラン選手によるライン形成。どちらかがついていけず、ラインがちぎれてしまう光景は少なくありません。
上記に限らず、自力と番手以下の実力差が大きいレースは日常茶飯事。その可能性を感じた場合は以下に注意しましょう。
- 自力が逃げ切れる可能性は?
- 別のラインから切り替えて追走できる選手は?
ポイントは、自力の持久力と逃げた選手を追っていける相手の有無。
他選手の「切り替え」が無理と見れば、車券は逃げた選手からの相手探しだけで良くなります。
穴党ファンなら単騎は狙い目
高配当を当てたい穴党におすすめしたいのが、単騎選手を絡めた車券です。
ここまで説明した通り、ラインを組まず1人で戦うのは圧倒的不利。しかし、競りやちぎれによって乱れることもあるため、万車券狙いなら“単騎絡み”は抑えるべき買い目かと。
誤解したくないのは「弱いから単騎」というわけではないこと。強い選手でも、諸事情でラインを組まないことはまあまああります。
近走成績や競走得点高いのに妙味があるレースは尚更、一撃回収を狙って勝負してみましょう!
ラインに関するよくある質問
ひょっとして、競輪選手がラインを組むのはルールだと思っていませんか?決してそんな定めはなく、あくまで古くからの伝統的なしきたりです。
その他、ラインに関する疑問は沢山あるので、ネットでよく見かけるQ&Aをいくつか紹介しておきます。
ライン構成は誰がどうやって決めるの?
ラインの並び順は「選手同士の話し合い」で決まります。
結論は選手自身がメディアに対してコメントを出し、専門紙などに公表されるのが一般的な流れ。
「1つのラインに複数の自力がいる」「同じ地区の選手がほとんど」といったケースもあるので、出場選手の中で調整を行ってラインの並びを決めるのです。
ただ、問題なのは話し合っても結論が出なかった場合。
その際に起こりえるのが「競り」をはじめ、同地区なのに単騎を選択したり、別のラインについてしまったり。
選手コメント以上の推測は困難ですが、もしその思惑まで予想できたら大穴を狙って的中できるかもw
ラインを裏切る行為ってあるの?
通常、ライン構成が決まったら選手はその通りに走るのが大原則。
切り替えなどのやむを得ない展開を除き、レース中の意図的な裏切り行為は信頼関係をぶち壊す行為となります。何より車券を買っているファンへの背信行為であり、ファン投票で支持されないなどの代償が待っているかもしれません。
一方、レース前の段階で「この選手とは連携しない」などの意思表示を出していればなんら問題はありません。
2023年11月のG3大垣記念最終日では、師匠の期待を裏切った弟子の行為でラインが突然解体してしまう出来事が実際に起こっています。
G1優勝2回の実績を持つ佐藤友和(画像左)。レースの数時間前にラインを組む予定だった弟子の小笠原光(右)との連携を解消し、別ラインで走ると方針転換。
すでに並び予想が発表されていたため、佐藤は選手管理に変更を申告。場内やCS放送などでもファンに注意を促すアナウンスが行われる緊急案件となったのです。
連携解消の原因は、小笠原が当日朝のアップに寝坊したから。
それ以前にも素行不良がいくつかあったようで、師匠の佐藤は堪忍袋の緒が切れたのでしょう。後に小笠原との連携を解消し、破門を言い渡したとされています。
ラインって結局「八百長」なのでは?
ラインにはそれぞれの役割があり、時にはラインのために玉砕覚悟で風を切る選手も。この「他の選手を勝たせるために走る行為」を八百長だと非難する声があるのも事実。
意図的に勝たせることができるのって八百長じゃないの?
唯一、八百長が公然と行われている公営ギャンブル(笑)わざと分けてもOKのルールはヤバすぎ
しかし、私個人の考えは全く違います。
海外の自転車ロードレースでは、自分のチームのエースを勝たせるために前を引いてアシストする選手がいます。アシスト役の選手は役目を終えるとペースを落として集団の後ろに下がりますが、ルール上は何も問題ありません。
日本の競輪も同じ理屈。表向きにはならなくても、レースの中で「アシストに回る選手」が存在。それこそがラインです。
「賭け事でそれを認めていいのか?」という新たな疑問も生まれかねませんが、むしろファンがその状況を察して買い目を考えることに、競輪の面白さがあるのではないでしょうか。
最も分かりやすいのが期末のレース。A選手の成績が振るわず「ここを勝たないとクビ」という状況が生まれたとします。
当然、ラインを組む地元選手は「仲間をクビにできない」と決起。Aを勝たせるために番手を任せ、自力が捨て身でお膳立てする。ラインが認められている以上、これは普通に想定できる心理です。
この時、Aの成績を事前に把握しているファンなら「ここはAに勝たせるだろう」と見て厚めに買うことができる。これもまた競艇の面白さといえます。
初心者には少し難しい予想かもしれません。しかし裏を返せば、知識を得るほど有利に車券予想ができるとも取れます。
覚えて無駄なことはない。勝ちたければ貪欲に学ぶことが重要。
まとめ
今回は競輪のラインについて詳しくまとめました。
競輪は「都道府県や地区同士の戦い」という色が濃い競技であり、ラインはその象徴ともいえます(どうしても馴染めないという方には、ラインがないガールズ競輪をおすすめします)。
勝負における「人間心理」も読む特殊なギャンブルなので、まずは選手たちの素性から調べると予想しやすくなるかもしれません。
ラインの仕組みを理解すればするほど、競輪の魅力に嵌ること間違いなし!
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