競輪選手は結果が全ての実力社会。一般社会と同様に“リストラ”が待ち受けており、競輪界ではクビ(強制引退)になる制度を「代謝(登録審査制度)」と言います。
では、具体的にどのようなルールで代謝選手が決まるのか?
詳細な仕組みをはじめ、クビを言い渡され輪界を去った選手など、代謝に関することをどこよりも詳しく解説します。
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競輪界の代謝とは?
競輪のみならず、競艇・オートレースにも存在する「代謝制度」。いずれも“登録が強制的に抹消される”ことを意味しますが、競技ごとにその仕組みは異なります。
強制引退ではなく「代謝」と表現される理由
競輪で強制引退(クビ)のを「代謝」と呼称する理由や、制度導入時期について記された文献は見当たらず。その為、明確な回答はできませんが、代謝という言葉の意味に関係しているのかと。
世間一般でいう「代謝」は大きく分けて2つの意味を持っています。
- 新陳代謝:古いものと新しいものとが入れ替わること
- 基礎代謝:生命維持に必要な最低限のエネルギー消費量
競輪の代謝は「選手の入れ替え」をする制度なので、おそらく“新陳代謝”が採用に関係しているのでしょう。
補足しておくと、まだまだ実力があるのに現役を退いた場合、代謝ではなく「引退」と表現します。
他の競技でも代謝はあるが、競艇は「4期通算」、オートレースは「新陳代謝制度」と独自の用語がある
年間2回、成績下位者66名がクビになる
競輪の代謝制度(登録審査制度)は、JKAの「競輪に係る業務の方法に関する規程」に定められた内容で実施。
競輪の場合、審査期間が終わる6月末と12月末が「期末」。成績不良の代謝選手もこの期末に決定します。
よって、選手のクビが切られるタイミングは年2回。また、代謝対象の選手は“登録削除者”として公示され、翌期から斡旋されることはありません。
なぜ「代謝」が必要なのか?
成績が悪かろうが誰にも迷惑かけてないし、強制的に引退させる必要はないような…
我々ファンからすれば、弱い選手の車券を買わなければ良いだけ。ただ、主催者側の視点から見れば、代謝せざるを得ない理由があるのです。
競輪では毎年新人選手が男女合わせて90人前後デビューするのに対し、引退選手(自分の意思で辞める選手)は毎年20~30人。
この差し引きだけでは選手が増えていく一方なので、実力が劣る選手の登録を一定数抹消して人数調整が行われています。
競輪選手は賭けの対象となっている存在。ファンの期待とお金を背負って戦う以上、それに相応しい能力を持つことが課せられた仕事です。
迫力ある面白いレースをファンに提供するためには、その期待に応えられない弱い選手を外すことも必要。したがって、代謝制度は「JKAからの戦力外通告」と言い換える仕組みでもあります。
代謝選手は2度と復帰できない
仮に代謝により引退したとしても、若い選手ならトレーニングを積んで再挑戦できる可能性はあるでしょう。
しかし、JKAは登録削除された選手の競輪学校再入学を認めていません。1度でも代謝で抹消された場合、競輪で稼ぐ道は完全に閉ざされてしまうのです。
競輪における代謝制度の仕組みやルール
ここからは代謝選手をどうやって決めるのかについて解説します。
基準となるのは「選手の競走得点」。計算方法やクビになる人数など、細かく定められたルールのもとで各期の代謝選手が決まります。
代謝(強制引退)の条件は?
代謝制度は全ての選手を対象としている訳ではありません。代謝に該当する条件が定められており、それを満たした選手でクビ回避を懸けた“勝負駆け”が行われます。
まずは、代謝対象となる条件がこちら。
男子の代謝条件
- 連続する2期の級班がいずれもA級3班
- 連続する2期の登録審査用得点(競走得点)がいずれも70点未満
ガールズの代謝条件
- 連続する2期の登録審査用得点(競走得点)がいずれも47点未満
上記条件に当てはまる選手で3期目が争われ、3期の競走得点を合計した平均(3期平均得点)の低い選手が下位から代謝候補となります。
その人数は男子が「ランキング下位30人」、ガールズは「ランキング下位3人」。割合としては全体の1%台前半です。
代謝ボーダーに複数同点がいたら?
3期平均得点の算定は小数点以下第2位まで(以下切り捨て)。期によっては代謝争いが0.01の差で決まることも少なくありません。
もし、ボーダー30位(ガールズなら3位)に複数の選手が同点で並んだ場合、どのような扱いになると思いますか?
答えは「全員アウト」。
代謝を回避できる規程は「序列の最下位から男子選手においては30番目、女子選手においては3番目に相当する選手の3期平均得点を超えたとき」と定めています。
つまり、同点では超えたことにならないため、その順位にいる選手全員が「代謝圏内に道づれ」となってしまうのです。
新人選手も1期目からカウント
代謝制度は競艇・オートレースにもあります。ただし、キャリアの浅い新人選手には特例処置があり、すぐクビにならないよう一定の猶予期間が設けられています。
対して、競輪の新人選手には猶予がなく、1期目から同じ土俵で戦う過酷な条件下。
デビューから2期連続で70点(ガールズなら47点)に届かず、3期目も点数を伸ばせなかった場合、僅か1年半で代謝となってしまうことに…
とはいえ、競輪は強い新人が1年目からS級に特進する例も多数。そもそも猶予は必要ないと考えられているのでしょう。
実力差が大きく全員同じ級班のガールズケイリン
2012年に復活したばかりの「ガールズケイリン」は、(2025年現在)全員がL級1班の扱い。代謝は毎期3人と少数ですが、男子のような級班分けがありません。
よって、実績の乏しい選手がG1クラスの選手と同じレースを走る機会も多く、競走得点を伸ばしにくい状況もよく見られます。
特に残念なのは、新人選手がレース慣れする前に代謝となるケース。
ガールズケイリンはラインがないので、自力で頑張るしかない点も“早期引退”に大きく影響しています。
2022年後期には、120期の3選手(堀田萌那・堀井美咲・濱野咲)が3期で代謝に追い込まれる由々しき事態に。
高倍率の試験を突破し、まさにこれからという若者たち。ガールズは猶予期間があってもいいと思うけどなぁ…
救済措置となる「チャレンジ検定制度」
レース中の落車によるケガが原因で点数を落とし、実力がありながらクビになった選手もいます。そうした事例を減らすため、JKAは「再チャレンジ検定制度」という救済措置の導入を2023年11月に発表しました。
対象となるのは、代謝に引っ掛かった選手の中で「審査対象となる3期のいずれかに“競走中等の落車負傷等によって最低出走回数に満たない期”があった場合」に該当する選手。
審査期間終了後、以下の要領で検定が行われます。
- 【実施方法】スタンディングスタートによる独走のタイムトライアル
- 【距離】男子:1000m ガールズ;500m
- 【合格基準】男子:1分9秒以内 ガールズ:38秒以内
※タイム計測は2回行われ、1回でも基準タイムをクリアすれば合格
合格した選手はすぐにレース復帰が可能。さらに、過去3期分の競走得点がリセット(復帰した期を改めて1期目としてカウント)され、最低1年半は現役を続行できます。
再チャレンジ検定に挑めるチャンスは1回のみ
代謝ボーダーをめぐる期末の勝負駆け
6月はG1高松宮記念杯、12月はグランプリで盛り上がる競輪界。その一方で、同じ時期のチャレンジ開催では、代謝候補の選手たちが生きるか死ぬかの戦いを繰り広げています。
メディアでほとんど報じられない代謝を懸けた勝負駆け。ボーダー前後にいる選手間では興味深い駆け引きも見られるようです。
A級チャレンジ・ガールズの競走得点
男子A級チャレンジ戦の競走得点
レース | 着順 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
初日(予選) | 74 | 72 | 70 | 68 | 66 | 64 | 62 |
2日目(一般) | 72 | 70 | 68 | 66 | 64 | 62 | 60 |
2日目(準決) | 79 | 77 | 75 | 73 | 71 | 69 | 67 |
最終日(一般) | 73 | 71 | 69 | 67 | 65 | 63 | 61 |
最終日(選抜) | 80 | 78 | 76 | 74 | 72 | 70 | 68 |
最終日(決勝) | 86 | 84 | 82 | 80 | 78 | 76 | 74 |
初日の予選で3着(一部4着)に入れば2日目の準決勝に進出し、それ以外は一般回り。2日目の準決勝と一般では7点もの差があることから、予選の成績次第でランキングが大きく動く場合もあります。
ガールズの競走得点
レース | 着順 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
初日(予選) | 56 | 54 | 52 | 50 | 48 | 46 | 44 |
2日目(予選) | 56 | 54 | 52 | 50 | 48 | 46 | 44 |
最終日(一般) | 53 | 51 | 49 | 47 | 45 | 43 | 41 |
最終日(決勝) | 60 | 58 | 56 | 54 | 52 | 50 | 48 |
ガールズの普通開催は、予選2走の成績で最終日の決勝に進む選手が決まります。
過去の代謝ボーダーライン
期 | 男子 ※代謝30位 | ガールズ ※代謝3位 |
---|---|---|
2024年後期 | 67.41 | 44.79 |
2024年前期 | 67.76 | 45.69 |
2023年後期 | 67.75 | 45.53 |
2023年前期 | 68.14 | 45.72 |
2022年後期 | 67.91 | 44.56 |
2022年前期 | 67.60 | 45.73 |
2021年後期 | 67.08 | 45.37 |
2021年前期 | 66.66 | 46.03 |
上記は2021年前期以降の代謝ボーダーです。
期によってややバラつきがあるものの、平均値では男子67点台・ガールズ45点台。中でも選手数の多い男子は「0.01~0.02の差」で決まることが多く、30位タイに2選手が並び“揃ってクビ”になる期も少なくありません。
代謝ランキングは節ごとに変化
競輪の普通開催は3日間が基本。これを「節」と呼び、代謝選手のランキングは1つの節が終わるごとに変動。それと同時にボーダーラインも変動します。
代謝争いの中にいる選手が絶対取りたくないのは、平均点数が大きく下がる7着(最下位)。特に2日目一般戦の7着は60点しか入らないので致命傷となりかねません。
期末に発生しやすい「意図的な失格」と「途中欠場」
好調選手はレースをガンガン走って点数を伸ばせますが、ボーダー近辺にいるほとんどは不調の選手。
そういった選手が点数を下げずに代謝を逃れるため、期末が近づくと最終手段ともいえる“奥の手”の発生率が増加します。
最も多いのは「内圏線踏切り」。
自ら4秒程度以上(最終周回のバックストレッチライン到達前なら6秒程度以上)内圏線を踏み切って走行する失格行為。
失格はノーカウント扱いとなるので、勝負駆けの状態で上位入着できないと判断した時によく使う手段。しかし、失格は1回につき3点減点。事故点も加算されるため使える回数は限られます。
次に多いのは「2日目からの途中欠場」。
予選を突破できなかった場合、2日目は点数の低い一般戦を走らねばなりません。
レース | 着順 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
2日目(一般) | 72 | 70 | 68 | 66 | 64 | 62 | 60 |
ノルマの高い選手にとって、一般戦を走ることは状況をより苦しくする可能性大。「その節を捨て、次で立て直す」ことを目的に、2日目以降走らない選択を取ることもあります。
1走1走が重要となる最終盤
崖っぷちの選手にとって、代謝ボーダーとクビ候補のランキング両方が気になる期末。特に、最後の1ヵ月は全てのレースが「重い勝負駆け」となっていきます。
安全圏に入った選手は、期内の斡旋を欠場して逃れる動きも。一方、ボーダー上の選手が同じ開催を走ることもあるので、レースを組む番組屋もなるべく有利不利が出ない編成の気遣いが見られます。
また、代謝候補と同じラインの選手が「クビにさせないためのアシスト」に回るのはよく見る光景。
この事情を把握しておけば「意図的に〇〇を勝たせる動き」が予想しやすくなるかも
最新の代謝ランキングを発信するブログ「競輪明るくない…」
代謝回避を争っている選手の状況はどうやって調べれば良いのか?
競輪のオフィシャルサイトではありませんが、選手や関係者も注目している以下のブログで詳細を知ることができます。
このブログでは、代謝候補に挙がっている選手の全データを期ごとに集計。
また、ボーダー争いの渦中にいる選手に関して、結果に加えて出走レースの展望と寸評(調子の良し悪しや今後の期待度など)も掲載。
同ブログほど詳しくデータを公表しているサイトはないため、関係者やメディアもかなり頼りにしているとか。
ちなみに、運営主のへぼたろさんは普通に仕事もされている一般人。「このような状況での各選手の渾身の走りを、立場を分かった上で確認していただけると幸いです」とブログ内でコメントしています。
この情報を求めて、期末付近の閲覧数は爆増するらしいw
代謝で引退した選手とその後
代謝により引退してしまった選手たち。引き続き競輪界で仕事する人もいれば、全く別の業界でセカンドキャリアをスタートさせる人も。
出口眞浩(でぐちまさひろ)
神奈川63期「出口眞浩」は、G1タイトルを獲得しながら代謝制度で競輪界を去った数少ない選手。
1994年G1オールスター競輪(いわき平)で吉岡稔真らを退け、初のビッグタイトルを獲得。その後も活躍を続けましたが、A級3班だった2023年に2度の大きな落車を経験。
肩と首に大怪我を負ってしまい、2023年後期は落車した1走のみ。2024年前期もレースを走れないまま代謝ランキングは下から2番目まで急降下。この時点でクビが濃厚な状況に。
復帰のメドも立たなかったことから、期末前の2024年4月に現役引退を表明しました。
出口さんは引退後指導者として後輩を育成する傍ら、地元(川崎競輪場)のYouTube配信で解説者として活躍。引退報告会でも「競輪界に恩返しをしたい」と話しています。
俵裕一郎(たわらゆういちろう)
32年4ヵ月に渡って現役を続けた福岡67期「俵裕一郎」。S級に昇格することはなかったものの、通算242勝を記録した名選手です。
2022年前期・後期と70点を割り、勝負駆けとなった2023年前期は67点台止まり。3期平均67.47(ボーダー68.16)で無念の登録削除となりました。
現役で活動中、俵さんは1級カイロプラクターの資格を取得。引退後は北九州小倉で「Tプラスカイロプラクティックたわらのて」を開院。
気になる方はSNSをご覧ください!
山田二三補(やまだふみお)
愛されキャラで大人気だった愛知64期「山田二三補」。
40代の頃には不調が続いてクビを覚悟したことも。そんな中、2013年グランプリ覇者で支部の後輩「金子貴志」とトレーニングをするようになってから成績が上がったというエピソードは有名です。
しかし、2022年前期から3期連続で点数を落とし、2023年前期に代謝対象9番目で登録を抹消。
引退後はたこ焼き屋のキッチンカー「輪蛸」を知人から受け継いで開業。各地の競輪場やオートレース場などに出店し、深谷知広なども買いに来る人気店だとか。
猪子真実(いのこまみ)
ガールズ2期生の104期「猪子真実」。
33歳でデビューした2024年5月の青森では、ガールズ歴代最高となる3連単144万5400円の超大穴を演出した女子レーサーです。
2023年前期から調子を落とし、2期連続で45点台に低迷。3期目(2024年前期)は大きなノルマを背負う土俵際でしたが、ガールズランキングで下から2番目となり2024年7月に登録を削除されました。
引退後も競輪の世界に残ってYouTubeライブへのゲスト出演などで活躍。8月にはG1日本選手権のアンバサダーに就任しています。
まとめ
今回は競輪界の代謝についてまとめました。
トップレーサーによる華やかな戦いの裏にあるのは、選手生命を賭けた絶対に負けられないサバイバル。
わずか0.01点の差で“天国 or地獄”が分かれることも多く、大きなプレッシャーを背負って走る競輪選手の厳しい現実があります。
そして、競輪ファンにとっても関係ある問題。代謝争いの動向をチェックし、勝負駆け選手の車券を狙うのは欠かせない予想法の一つです。
グランプリやG1だけでなく、A級チャレンジの底辺で繰り広げられるドラマにもぜひ目を向けて楽しみましょう!
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