全競輪選手が恐れると言われている「お寺行き」。寺に行ったことによって、成績が下がる選手も多数存在するいわくつきの場所。
お寺とはどこなのか?どのようなことをしたら寺に行くことになるのか?寺の中では何が行われているのか?
「お寺行き」の全貌を明らかにしていきます。
競輪選手のお寺行きとは?
競輪選手にとっての「お寺行き」は”重大な違反行為を行った選手に対する特別指導訓練”を指します。
ここからは、特別指導訓練の種類やお寺行きとなる違反行為の内容について解説します。
違反点数90点到達で、特別指導訓練の対象に
期間内に累計90点以上の累計違反点数を獲得した選手は、特別指導訓練の対象となります。
- 上期 1~4月
- 中期 5~8月
- 下期 9~12月
期間は、上期・中期・下期の3つに分かれています。
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特別指導訓練は通称「違反訓練」と呼ばれているんだ
違反点数の内訳・走行注意と重大走行注意の違い
違反 | 点数 |
---|---|
失格 | 30点 |
重大走行注意 | 10点 |
走行注意 | 2点 |
競輪による違反行為は「失格」・「重大走行注意」・「走行注意」の3種類に分けられ、上記の通り違反点数が設定されています。
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2008年に失格の違反点数は、25点から30点に変更されたんだ
4ヶ月内に上記3種類の累計違反点数が90点を超えると特別指導訓練に。
失格には規定がありますが、重大走行注意と走行注意は定まった規定はありません。JKAが内容を見て、違反の判断を行うことに。
- 走行注意は公開されない
- 重大走行注意は影響が大きい場合のみ公開
失格がない選手でも、軽微な動きから走行注意を取られることもしばしば。失格の少ない選手でも違反点数を持っています。
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先頭でフラフラしたり、イエローライン踏切を行うと、重大走行注意を取られやすい。逆に横の動きは走行注意で終わることが多いぞ
ルール違反は12種類
- 敢闘の義務違反
- 過失走行
- 内側追抜き
- 外帯線内進入
- 押圧・押し上げ・押し合い
- 斜行・蛇行
- 中割り
- 内圏線踏切り
- イエロー・ライン踏切り
- 先頭員早期追抜き
- 先頭員に対する妨害
- 周回誤認
競輪におけるルール違反は上記12種類。
2~7の違反は、内容によって「失格」・「重大走行注意」・「走行注意」に分かれることに。
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他選手を落車させる事故を起こすと失格になるぞ
特別指導訓練通知により寺行きが確定


違反点数90点を超えると、自宅に「特別指導訓練通知」が封書で届きます。
- 違反訓練の日程
- 訓練に必要な持ち物
- 違反内容の内訳
特別指導訓練通知には、訓練を受けるまであっせん停止である旨が記載。選手を続けるためには、特別指導訓練への出席が必須となります。
違反訓練は黄檗山萬福寺と競輪学校の2種類




違反訓練を行う場所は黄檗山萬福寺と競輪学校の2ヶ所。
内容 | 黄檗山 | 競輪学校 |
---|---|---|
対象者 | 悪質な違反 | 一般的な違反 |
目的 | 規律意識の再教育 | 競技技術の向上 |
研修 | 座禅・読経 | 実技・座学 |
期間 | 5泊6日 | 4泊5日 |
一般的な違反者は競輪学校での訓練。悪質な違反を侵した選手は黄檗山萬福寺での訓練を実施。
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分かりやすく言うと、黄檗山萬福寺は競輪学校での訓練の上位互換だ
体力に秀でたプロのアスリート。黄檗山萬福寺で実施する座禅や作務、競輪学校で行う座学を苦痛に感じる人が多く、違反訓練は恐怖の対象になっています。
重大な違反行為とは?
黄檗山萬福寺での違反訓練は「悪質な違反」と定義されていますが、お寺行きが濃厚となる違反行為も存在。
- スタート再発走
- 先頭員から10車身以上離れる違反
- 先頭員に対する早期追い抜き
- 1ヶ月に3回の重大走行注意(重注)
違反行為の中でも、スタート再発走は最も大きなペナルティに。
再発走となると発走時間が遅れることになり、施工者にとっては売上の損失が発生。ファンに対しても迷惑をかける行為となるため、厳しい処置が行われることに。
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再発走になった場合、レース後に選手全員が開催指導員室に呼ばれて、弁明書を書かされるんだ
スタートけん制も大きなペナルティに。
逃げ(先行誘導員の直後で周回)をうつことは、勝負どころで他のラインが捲った時に、後ろのポジションに追いやられやすい不利なポジション。
出来るだけ前を取りたくないという選手の思惑から、スタートでけん制を行い、良いポジションを確保しようとしますが、レースが成立しなくなるため「重大走行注意」に指定される違反行為に。
先行誘導員から10車身離れているかどうかは、各周回でカウントされるため、極端に後方のポジションに位置すると大きなペナルティを受けることに。
特別指導訓練以外の罰則
点数 | 処分 | 期間 |
---|---|---|
120~149点 | あっせん停止 | 1ヶ月間 |
150~179点 | あっせん停止 | 2ヶ月間 |
180点以上 | あっせん停止 | 3ヶ月間 |
お寺行き・競輪学校での研修などの特別指導訓練は、違反点数90点を超えてからとなりますが、違反点数120点を超えると「あっせん停止」の厳罰が…
日本競輪選手会やJKAが選手に対して、レースへの出場を禁止する処分のこと。
1回の失格でも、悪質であると判断された場合は「あっせん規制委員会」から、一定期間のあっせん停止の処分を受ける場合も。
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あっせん停止は最大で1年間。その間、収入が0になる厳しい処分なんだ
違反点数の確認方法


違反点数の累積状況は、公式サイトKEIRINJP内のトピックスにある「あっせんをしない処置に係る違反点数累積状況」にて月2回発表。
120点以上のあっせん停止処分を通知するページですが、90点以上の選手も明記されており、特別指導訓練対象となる選手の参考資料になります。


S班・1班選手の失格数・重大走行注意数は「月刊競輪WEB」にて確認が可能。
失格数・重大走行注意数の合計が60点を超えている選手の場合、もう1回失格処分を喰らってしまうと特別指導訓練が確定する状況に。



重大走行注意が多いから、決勝・準決勝戦以外では無理をしてこないだろうな
人間が意図や気持ちが、レース結果に反映しやすい競輪。失格・重大走行注意の数を加味して予想するようになれば、貴方も競輪予想マスターにw
黄檗山萬福寺で行われる修業とは?
全競輪選手が恐れる黄檗山萬福寺。
黄檗山萬福寺とはどんなお寺なのか?どのような修行が行われるのか?修行による影響など、お寺行きの内容について解説していきます。
黄檗山萬福寺とは?


名称 | 黄檗宗大本山 萬福寺 |
読み | おうばくざん まんぷくじ |
住所 | 〒611-0011 京都府宇治市五ケ庄三番割34 |
宗派 | 黄檗宗 |
開創 | 1661年(寛文元年) |
1661年、中国僧「隠元隆琦禅師」によって開創された黄檗山萬福寺。日本の伝統的な寺院とは異なり、中国・明時代の建築様式を色濃く残す仕様に。


競輪選手のみならず、一般の参拝客も禅修行の体験が可能。
期間 | 1日・1泊2日・2泊3日 |
内容 | 坐禅・写経・法話・食事作法・作務 |
人数 | 4人以上 |
電話 | 0774-32-3900 |
現在は個人での申し込みは不可となり、団体での申し込みのみ。以前は作務衣を着たうえでの修行体験となりましたが、現在は軽装で研修に参加する形に。
寺行きとなる人数は?
寺行きとなる人数は特に規定なし。違反内容により、お寺行きを判断された選手は全員、萬福寺への訓練に行くことに。
過去競輪選手が4000人以上いた時代は、一度に80人近くお寺行きになったこともあるのだとか。近年は選手の技術も向上し、1回の訓練に参加するのは10人程度になることが多いそう。
修行期間と罰金
期間 | 5泊6日 |
罰金 | 6万円 |
修行の期間は5泊6日。
累積点数や違反内容によっては、2泊3日コース・8泊9日コースなども用意されていますが、ほとんどの選手は5泊6日のコースに。
罰金は6万円。正確な名目は「研修への受講料」。
JKAが負担する金銭はなく、萬福寺までの交通費を含め、全額自腹での参加に。
S班やS級1班の選手にとっては、影響のある金額ではありませんが、チャレンジ(A級3班)の選手にとっては大きな痛手になります。
修行中の1日のスケジュール
時間 | 内容 |
---|---|
AM5:00 | 起床 |
AM5:30 | 座禅 |
AM6:10 | 作務 |
AM7:00 | 朝食 |
AM8:30 | 講和 |
PM12:00 | 昼食 |
PM1:30 | 歩行訓練 |
PM2:30 | 運動・入浴 |
PM6:30 | 夕食 |
PM7:00 | 座禅 |
PM9:00 | 就寝 |
萬福寺で行われる修業。1日スケジュールは上記の通り。


それぞれの作業では、どのような事を行っているのか?解説をしていきます。
- 起床(AM5:00)
-
朝起きた後は、身支度をして道場へ向かいます。
- 座禅(AM5:30)
-
座禅開始10分前に会議室に集合した後、全員で座禅を行う道場へ移動。座禅を行う時間は約40分。
4人ずつ向かい合って座り、2人のお坊さんが立ち会うことに。座禅中に動くと、警策(けいさく)によって肩を叩かれます。20分経過時に1度休憩を挟み、再度20分行っていきます。
モト競輪選手は脚が太いので、座禅を組めずに片足ずつ座禅を組む人が多いそうだ
- 作務(AM6:10)
-
作務とは禅宗の寺院で僧侶が行う日常的な労働や作業のこと。
朝の作務は掃除のことで、毎日お坊さんから指定された場所を掃除します。
- 朝食(AM7:00)
-
座禅同様に、10分前に会議室に集合したのち、全員で食堂に。お坊さんの鐘の合図で、食堂へ入室するとご飯が用意しているテーブルに座ります。
教本を見ながらお経を唱えてから、食事開始。メニューはお粥と漬物3種類。
モトお寺の料理は精進料理で、肉や魚は一切入っていないぞ
- 講和(AM8:30)
-
講和の時間は約1時間。お坊さんが話す場合が主ですが、選手会の人が話をすることも。
- すべての人に感謝をする
- 水道の蛇口をひねると水が出る
- ふとんがあってこそ、寝ることが出来る
仏教の教えが説かれている講和を聞き、心を整える。その後は、作務として庭の草むしりなど作業を行うことに。
- 昼食(PM12:00)
-
メニューは麦飯1杯・味噌汁1杯・おかず1品・漬物と質素なもの。朝食と同様に、ご飯を食べる前にお経を唱えます。
朝食・昼食共に量が少ないため、男子選手にとっては辛い状況ですが、麦飯をお替わりする人はほとんどいないのだとか。
- 歩行訓練(PM1:30)
-
歩行訓練はいわゆる散歩。約1時間、寺の周辺や寺内を散歩を行います。
- 運動・入浴(PM2:30)
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散歩が終わった後は、運動・入浴の時間。厳しい修行の中では、唯一休息のような時間となり、筋トレや階段でトレーニングする選手も存在。
歩行訓練が終わった後は、入浴の時間。選手たちは交代でお風呂に入ります。
- 夕食(PM6:30)
-
夕食はお経を唱えることなく、食事が可能ですが、メニューは朝食・昼食とほぼ同じ。ごくまれに肉の入っていないカレーが出ることも。
- 座禅(PM7:00)
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座禅を行う時間は1時間。30分座禅を行い、1度休憩を挟んで再び30分座禅。
道場内は電気が点いておらず、外も暗くなるため、静寂が支配するなかでの座禅となります。
- 就寝(PM9:00)
-
昔は道場内で数十人が雑魚寝するという状況でしたが、近年はエアコンの効いた個室での就寝。時代は大きく変わったようです。
周りの状況に惑わされることのないゆったりした空間。
5泊6日もの間、己を見つめ直して、心と体を整える。これが黄檗山萬福寺で行われる訓練です。
修行中のルール
- 携帯電話・電子機器類の持ち込み不可
- 雑誌・書籍などの持ち込み不可
- 飲酒現金
- 外出禁止
- 旅費・研修費は自費
黄檗山萬福寺で行われる修業は、心を整える目的で行われる訓練。
ただ、選手によってはカロリーメイトなどの携帯食や、ふりかけなどを持ち込む選手もいたそう。もちろん禁止されている行為ですw
寺行きによるデメリットと制裁効果の意味
俗世間と離れて、心身を鍛え直す黄檗山萬福寺の訓練。競輪選手にとって恐怖の対象となっている研修ですが、実害もあるよう。
- 自転車に乗った訓練が出来ないため身体能力が下がる。
- 動物性タンパク質は採れず、体力が落ちる。
- 夏・冬の修行は体調を崩す可能性が上昇。
寺での訓練を終えた後は、数キロ程度体重が落ちる選手がほとんど。自分の感覚と実際の自転車操縦が合わなくなり、成績が悪くなることもよく見られる現象です。
精神修行を目的としながら、実害を伴う修行。選手が忌み嫌うのも納得ですw
寺行きの常連選手
失格や重大走行注意を多く受ける選手は寺行きの常連選手に。


グランプリ優勝経験がある佐藤慎太郎が、お寺の常連選手と言及したのが「大塚健一郎」。



“お寺慣れ”している大塚健ちゃん。里帰りというよりも、お寺関係者というレベルだよ
大塚健一郎と言えば、”最恐の競輪選手”の異名を持つ選手で、危険回数・失格回数は現役選手の中でもトップクラス。お寺関係者と間違えられるくらいにお寺行きになっても仕方がないですねw
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大塚健一郎の凶悪さは、以下のランキングでも存在感を示しているぞ


また、クリーンなレースをしている選手でも、小さい違反点から累計90点以上となる選手もチラホラ。
- S級S班
-
眞杉匠、松浦悠士
- S級1班
-
稲川翔、嘉永泰斗、高橋築、中井俊亮、新田祐大、平原康多、三谷将太、山田久徳、吉田拓矢
- L級
-
石井貴子、板根茜弥、尾方真生、児玉碧衣、當銘直美、野口諭実可、又多風緑、柳原真緒
上記は2024年の「出場あっせんをしない処置に係る違反点数累積状況」で違反点数90点以上を記録した選手の一部。
ここに名前が出ていない選手も、ほぼ全員が寺行きを経験。
ガールズグランプリ3連覇を果たした児玉碧衣は、「もう行きたくない。行かないように反省しました」と寺の辛さに白旗。
黄檗山萬福寺は、クリーンなレースを心掛けるべく抑止力として、存在感を示しているようですw
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以前は萬福寺以外でも特別指導訓練は行われていたが、他寺での修行があまりにも厳しすぎて、現在は萬福寺のみになったんだ。
まとめ
ここまで、競輪選手における「お寺行き」の解説と黄檗山萬福寺で行われる訓練の内容を解説しました。
車券を購入する私たちにとって、常軌を逸したラフプレーは不満を溜めるだけでなく、購買意欲がなくなる結果に。
黄檗山萬福寺の存在によって、健全な公営ギャンブル「競輪」が成り立っているのかもしれませんw
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